一城の霧雨 一箇所の楼台
「衣を沾し濕さんと欲す杏花の雨、面を吹くも寒からず楊柳の風。」ロマンチックかつピュアな空色は、自然の絵巻の如く美しい。江南の雨の霧がもうもうして、最も華やかな時代を維持している。古い街の青石古道に水の光があふれて、歳月の痕跡を刻みつけている。
水墨画のような江南は昔ら今までずっと変わらなかった。あの一城の悠然さから、一城の景色、一城の古風、一城の霧雨まで。
遠くの山々に、もやもやと霧がかかっている。変わり行く姿をして、無限の魅力を感じさせる。紗のように薄く透き通り、「恥ずかしそう」に何かを話したいようである。橋の下には静かに流れている川の水である。よく聞くと、その静かさの至りが感じられる。川面には烏篷船がゆらゆらとし、独特の詩趣を漂わせている。
一池の春波碧水を研げて、一絵の花紅葉をつける。じめじめした古い街には、いつも心につきまとっている雰囲気が漂っている。
奥深い雨巷よ、古風の庭園よ、藤の煉瓦壁よ、さらに煙柳に聞こえた鶯の鳴き声よ、霧雨に煙る楼台よ。
清らかな水を掬い取って、花の香りを袖に留められる。春の緑に染められた古い街に足を踏み入れると、のびのびとして自適する。静かな境地において、浮ついた心が徹底に落ち着くようになる。安らかな気持ちは、花の香りが漂っている夢のような景色にひたっている。
緑のコケは青々としていて、小雨が綿々と続く。天街の小雨は潤って酥の如し、楼台の青瓦は全て霧色に覆われる。「四百八十寺の多くの建物が、霧雨の中で霞んでいる」との杜牧の詩はなんとこの目の前の風景にぴったりだろう。
「だれもかれも、江南はいいところだと言う。よそのくにへ遊びに出た人は、江南へいって年をとるまでくらすのが一番よいとおもっているのだ。」